千葉市
少子化時代に子を産み育てるスタイルは1つではない
教育社会学者の舞田先生が統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。第61回では、少子化の問題に取り組みます。そこで、日本でも増えている「未婚の母」の存在を取り上げるのが、舞田先生ならではの視点です。伝統的な家族観を重んじる法制度の問題にも触れ、少子化解消に向けての提言がありました。「少子化」も「未婚の母」もわが子が大人になる将来まで関わるテーマです。読後にはぜひ、お子さんと、これからの社会がどうあるべきか話し合ってみてください。
●シングルマザーはもはや少数派ではない
こんにちは。教育社会学者の舞田敏彦です。子どもの貧困が社会問題化して久しいですが、とりわけ一人親世帯の状況は酷くなっています。この群の相対的貧困率は半分を超え、世界でトップです。
子育て年代の離婚率の上昇により、一人親家庭が増えてきています。最近では、18歳未満の子どもの7人に1人が一人親世帯の子で、決して少数派ではありません。一人親世帯の多くは、夫と離婚した母と子からなる母子世帯ですが、結婚せずにずっと子を一人で育てているお母さんもいます。いわゆる、未婚のシングルマザーです。
日本では、「(1)学校卒業 → (2)就職 → (3)結婚(法律婚) → (4)出産」という順序でライフイベントをこなすことが強く期待されます。(2)と(3)が入れ替われば「定職もないのに…」と嫌味を言われ、(3)と(4)が逆になると「まだ結婚してないのに…」と眉をひそめられます。
しかし世界を見渡すと、これらの順序があべこべな社会はいくらでもあります。試みに、法律婚をしていないママさんの割合の国際比較をしてみましょうか。子どもがいる25~54歳の女性のうち、配偶関係が「事実婚」ないしは「未婚」の割合を計算してみます。表1は、目ぼしい6か国の数値です。英仏も加えたかったのですが、2010~14年実施の『世界価値観調査』の対象になっていないようです。
日本は事実婚が1.2%、未婚が0.5%、合計1.7%(59人に1人)となっています。伝統的な家族観が強い、お隣の韓国では皆無です。
しかし欧米になると率は一気に上がり、アメリカは15.1%、ドイツは20.5%、スウェーデンは33.9%です。スウェーデンでは5人に1人が事実婚を選んでいます。事実婚もれっきとした家族制度とみなされ、法的な保護や権利を与えられる(サムボ法)とのこと。婚姻に至るまでの「お試し期間」ですが、この段階でも安心して出産できる社会です。
コロンビアでは、お母さんの半分が法律婚をしていません。コロンビアでは事実婚が幅を利かせていますが、国民の大半が離婚御法度のカトリックなので、法律婚をためらい事実婚を継続するカップルが多いのでしょう。南米では、こういう国が多くなっています。
先ほど「未婚のシングルマザー」という言葉が出ましたが、一人で子育てしているママさん(上表でいう未婚)は、日本では0.5%です。しかし、同じ先進国のアメリカは5.9%、ドイツは9.6%、スウェーデンは14.0%と結構います。
20年間で日本の「未婚の母」は5倍に増加
ただ日本でも、一昔前に比したら未婚のシングルマザーは増えています。『国勢調査』のデータによると、母子世帯(母と未成年の子からなる世帯)の母親で配偶関係が「未婚」の者は、1995年では2万4396人でしたが、2015年では11万3562人となっています。この20年間で5倍近くの増加です。最近では母子世帯の母親の15.0%、7人に1人が未婚のシングルマザーです。
これは全国の数値ですが、地域差もあります。母子世帯全体のうち、未婚シングルマザーの世帯が何%か。47都道府県の数値を計算し、ドットを配置したグラフにすると図1のようになります。
この20年間にかけて、全国的に未婚シングルマザー世帯率が上がっています。1995年では全県が10%を下回っていましたが、2015年では大半の県がこのラインを超え、東京・沖縄・大阪は2割を超えます。最高の東京では24.4%、母子世帯の母親の4人に1人が未婚者です。
●「伝統的家族観」優先のため、寡婦控除を受けられない「未婚の母」
未婚のシングルマザーは増えており、もうちょっとしたら「母子世帯=夫と離婚した母と子の世帯」というイメージは覆されるかと思います。ただ現時点で問題なのは、未婚のシングルマザーに対する支援が手薄なことです。
6月の法令改正で、保育料の軽減や職業訓練給付金の増額などが受けられるようになりましたが、所得税や住民税の控除は見送られています。理由は、所得税法上の「寡婦」の定義を変える必要があるからとのこと。政府関係者は「寡婦に未婚を加えると、結婚して出産するという伝統的な家族観の変化を主導する話になりかねない」(2月4日、東京新聞「ひとり親支援 未婚に拡大 6月から政令改正」)と言っていますが、「伝統的な家族観」が時代にそぐわなくなっていることを認識すべきです。
母子世帯の母親の平均年間就労収入は200万円ですが、未婚の母に限ると177万円と少なくなっています(厚生労働省『全国ひとり親世帯等調査』2016年度)。つまらない固執で、子どもの貧困を持続させてはなりますまい。厚労省も懸念は持っているようで、未婚の母も寡婦控除に加える制度改革が検討されています。
未婚でも子は欲しい若い女性たち
将来、子どもにしてほしくないことを日本の親に尋ねると、62.3%が「未婚で子を持つこと」を選んでいます(国立女性教育会館『家庭教育に関する国際比較調査』2006年)。スウェーデンでは、こういう親は17.6%しかいません(嫌われるのは同居!)。
辛い道を歩んでほしくないという親心でしょうが、未婚で子を産む選択肢を確立することが、わが国の少子化を克服する術なのではないかと、個人的に考えています。実はですね、「結婚は望まないが子どもは欲しい」という考えの若い女性、結構いるのですよ。
2013年に内閣府が実施した若者の国際意識調査では、結婚をすべきか(したほうがいいか)、子どもを欲しいか、と尋ねています。この2つをクロスさせることで、「結婚はしなくてもいいけれど子どもは欲しい」という考えの女性を抽出できます。図2は、日本とスウェーデンの20代未婚女性の結果です。横幅で結婚意識、縦幅で出産希望の有無を表現しています。
横軸をみると、スウェーデンでは結婚否定派(しなくてもよい、しないほうがいい)が多くなっています。これを出産希望と絡めると、「結婚はしなくてもいいが子は欲しい」女性の割合は62.0%にもなります。法律婚ではなく事実婚でいい、という考えなのでしょう。
日本でも、こういう女性は18.2%います。20代の未婚女性は443万人ほどですが(『国勢調査』2015年)、この比率をかけると81万人になります。この81万人の女性が出産に踏み切った場合、出生数はかなり増えることになるでしょう。
●どんなスタイルでもちゅうちょせず子どもを産めることが少子化を止める一手
いろいろと「縛り」が生じる結婚(法律婚)をせずとも、子どもを産み育てられるようになれば、少子化問題は解決するかもしれません。策としては、事実婚のカップルに法的保護を与える、シングルの親への経済的支援を手厚くするなどが考えられます。少子化に歯止めがかかるならそのコストは回収されるように思いますが、どうでしょうか。千葉市が、事実婚のカップルを法定婚の夫婦と類似の関係と認める「パートナー制度」を導入するそうですが、こういう取り組みが広がってほしいと願います。
少子化の原因は未婚化という認識のもと、各地で「婚活」の取組が行われていますが、結婚と出産をセットで考える必然性はありますまい。いろいろ書きましたが、どんなライフスタイルを選ぼうが、子を産み育てられるようになればいい。私が言いたいのは、こういうことです。